上京したけど森だった話

~あるICU生のひとりごと~

スウェーデン留学記⑬:春学期の半分を終えて(前編)

Hej hej!みなさんこんにちは!

スウェーデンの大学では1月から春学期が始まり、その半分が終わりました。私は春学期全体では3つの授業を、前半に1つ後半で2つ履修しています。今回は前半の授業が終わったのでその振り返りをしてみたいと思います!

 

English for Teachers (小学校教師のための英語)

私は日本では中高の英語科教職を履修している最中ですが、春学期の前半に履修していた授業は"English for Teachers of Year 4-6" というもので、スウェーデンで4~6年生の先生になるためのプログラムのうちの1つのコースでした。(詳しくはこちら↓)

hanamaru5.hatenablog.com

印象的だった内容

このコースを履修して印象的だった内容をいくつか紹介します。

スウェーデンの学習指導要領と評価システム

これらが印象的だった理由としては、その一貫性と具体性、明確な目的があるところが日本の学習指導要領や評価システムとかなり違うと感じたからです。

スウェーデンでは6年生になるまで評価、成績付けを児童に行いません。6年生の際に、スウェーデン語(国語)、算数、英語の3つの強化で National Test (全国統一テスト)があります。このテストではA~Eまでの評価が付けられます。これらの評価は学習指導要領における"Aims (目的)"や”Core content (学習内容)”の部分と結びついており、無造作にテストしているわけではありません。「何ができるか」の部分は成績では変わらず、何を「どれくらいできるか」によって成績が変わる仕組みになっています。

Läroplan (Lgr11): Curriculum for the compulsory school, preschool class and school-age educare (revised 2018)

この表は評価基準の表ですが、例えば"Pupils can understand... in clearly spoken simple English" という「何ができるか」という部分は変わりませんが、「どのくらいできるか」という部分は「もっとも重要なメイントピックのみ→メイントピックとその詳細→全体とより詳しい詳細部分」というように変わっています。

このようにカリキュラムの目的と内容に基づいた明確な評価基準があるという一貫性と具体性、そしてその評価はNational Testにおいて公正性を保ちながら行われるという点がかなり印象的でした。

また、National Test は、"Learning OF the National Test" (テストのための勉強)ではなく、"The National Test FOR learning" (学習(を改善・促進する)のためのテスト)として位置づけられているそう。テストを通じて生徒の理解度を計り、教師、学校、各自治体が指導法や教育の在り方を考え直すための材料としてテストを利用します。そのためテストの内容も大人が一方的に作るのではなく、生徒に実際に問題を解いてもらい、楽しかったかどうかなどをフィードバックしてもらうのだそうです。

テストを作る際に「子どもがテストを楽しめるかどうか」をも検討する、という点が学習の本質をついていると感じましたし、何よりテストとはそのために勉強させる道具ではなく、逆に大人側が子どもたちを知り教育を改善していくための手法である、という発想にとても驚きました。

ヨーロッパ言語ポートフォリオ

ヨーロッパ言語ポートフォリオ(European Language Portfolio [ELP])とは、CEFRという言語レベルの基準なども制定している欧州評議会によって作成されたもので(What is the ELP?)、簡単に言うと言語や文化に関する履歴書・経歴書、といったところです。

言語学習を記録し振り返る枠組みを与え、努力や成果を可視化することで生徒自身が言語学習を体系的に捉えるサポートまた、言語学習へのモチベーションをあげるという役割を担っています。ELPはLanguage Pasport(言語パスポート)、Language Biography(言語経歴書・履歴書)、Dossier(ワークシートやエッセイなど授業で使用し作成したすべてを一つのファイルなどにまとめたもの)の3つから構成されています。字面だけみると仰々しいので実際にスウェーデンで使用されているものを見てみましょう。Europeiska språkportfolion - Skolverket

こちらはスウェーデンの6~11歳向けに作成された言語ポートフォリオです。絵柄も可愛く見やすいです。英語ではなくスウェーデン語でシンプルに記されています。

スウェーデンELP:表紙(1枚目)、パスポート(2枚目・3枚目)
パスポートの最初のページでは名前や年齢、住んでいる国などに加え、使用できる言語や誰と話すか、どこで話すかなどを記します。

スウェーデンELP:Language Biography (言語経歴書・履歴書)
文化的な側面についても記録します(家族や親せき、友達の出身についてやその人たちがどんな言語を話すかなど)

Biography続き:(左)どんな言語を勉強したいか、またその理由。違う言葉を話すことは大切だと思うかどうか。(右)できるようになったらその枠に色を塗る

日本でも最近ではCAN-DOリストなどを用いて何がどのくらいできるようになったかを生徒自身に自己評価してもらうという動きは進んできていると思いますが、その授業内容ごとにやったりやらなかったり、一つのパスポートなどといった形で低学年から中学生・高校生まで使用し一目で自分の学びを可視化できるようなポートフォリオを開発・使用している先生や学校は少ないのではと思います。そしてさらに言語的側面だけでなく、言語「使用」の側面や文化、自分がどのようにどれだけその言語と接触しているかなどを生徒たち自身に考えてもらうことで、「何のために」言語を学ぶのかといったことやその言語を学ぶことの必要性・メリットなどに生徒自ら辿り着くことができるのが素敵だなと感じ印象にのこっています。

 

Children's Literature(英語教育のための文学使用)

そして今回のコースの中で一番印象に残った内容はChildren's Literatureでした。文学作品自体が印象的だったというよりは、教員養成の在り方として印象に残っています。日本の英語科教職では蔑ろにされている分野だと感じたためです。

私は現在ICUで英語科教職を履修しており、確かに英文学は必修科目となっています。ですがそれらは教師のために文学をどのように授業で使用するか、といった内容よりはただ、英文学の歴史やその作品の考察・分析など英文学の勉強を行います。英語科教師として文学的素養を身につけておくことは必要かもしれませんが、その素養があるからと言って授業に生かせるかどうかはまた別の話です。さらに、英語を勉強途中である中学生や高校生に、日本語で読んでも難しい文学作品を英語で読ませることはかなり困難だと考えられます。(もちろん英語に特化したカリキュラムのある学校ではもう既に行っているかもしれませんが…大部分の学校では難しいはずです)

ですが、スウェーデンの教員養成では児童文学を扱い、まずは課題などを気にせず自分たちがその作品を楽しみながら読むことを求められました。その後作品について話し合ったり、それらがカリキュラムなどとどのように組み合わせることができるかなどを考えました。

その時に私は、純粋に児童文学を読むことが面白いと感じたのと同時に、ほとんどそういった作品をしかも英語で読んだことのない私が、いざ教師になって日々忙しく過ごす中で急に本を使おう、詩を取り入れよう、次はこんな絵本を読み聞かせしてみようかな、なんて手が回るはずがないと気が付きました。

もちろん日本では定められた教科書があるのでそちらが最優先で副教材として本や詩を取り入れることは難しいかもしれませんが、文学は言語的な側面だけでなく文化的な側面も含み、さらにAuthentic Material(本物の教材)として機能することができます。本物に触れることは生徒の言語的・文化的理解を高めるだけでなく、モチベーションだって高めてくれるはずなどメリット満載です。難しい英文学の勉強も大切かもしれませんが、生徒たちに合ったレベルの文学を学びその実用的な使用法を教員養成の段階で取り入れていくべきと強く感じました。

そしてこの内容がとても強く印象に残った私は、今まで本などはそんなにたくさん読む方ではありませんでしたし、英語の本も片手で数えられるくらいしか読破したことがありませんが、卒論の研究テーマを「第二言語教育における文学の使用」に決めました。まだ詳しい内容は決めていませんがとてもわくわくしています。考えてみれば自分自身が英語学習に力を入れ始めたきっかけはハリーポッターだったわけで、日本語ではあれど何度も何度もハリーポッターを読み英語の世界への扉を開けた私にとって、このテーマはもしかしたら偶然のようで必然だったのかも!なんて思ったりもします。

この授業に関して内容以外の側面でも気づきがあったのでまだ書きたかったのですが、すごく長くなってしまったので続きはまた今度!

 

Tack för att du läste! Hej då!