上京したけど森だった話

~あるICU生のひとりごと~

インターナショナルスクールでの教育実習#2:国際バカロレア(IB)って?

現在スウェーデンに留学中、かつ現地のインターナショナルスクール(インター)で教育実習をしています。そのインターと日本の学校との違いなどを記す前に、今回はそのインターで行われているプログラムについて、説明してみたいと思います!(といいながら、私自身が勉強したかっただけです、お付き合いください笑)

hanamaru5.hatenablog.com

 

国際バカロレアとは

まず、端的に言うと国際バカロレア(International Baccalaureat, IB)とはスイスのジュネーブに本部のある国際バカロレア機構(International Baccalaureat Organization)による、「国際的な」「世界共通の」「教育的カリキュラム」です。

通常、教育のカリキュラムはそれぞれの国や地域によって違います。日本では学習指導要領が約10年に一度改定され、教育基本法第一条に記されているいわゆる「一条校」は私立であっても公立でもこの指導要領に従うことになっています。このように、日本には日本の、違う国にはその国の、また国によっては地域ごとに異なるカリキュラムが設けられそのカリキュラムに従うことになっています。そういった今まではその国、その地域独自であったカリキュラムから、世界中で共通するカリキュラムを作ろうという動きが、国際バカロレアということができます。(最近は日本でも一条校として国内の高校を卒業したということになるIB校が増えてきています。)

ですが初めから世界共通のカリキュラムを作るぞ!という目的だったわけではないようです。 1960年代にはやくも、暗記や詰込み型で画一的な一方通行型の従来の教育から、批判的思考を養い生徒の主体性や選択といった、生徒に焦点を当てた教育への移行が世界の一部では教育のトレンドとなっていたそう。ここには、Learning by Doing で知られる John Dewey (デューイ)、自由教育を提唱した A.S. Neil (ネイル)、Constructivism(子供は自分で経験や実験を行いながら知識を構成していく)や4つの発達段階を提唱し言語教育でもキーパーソンである Jean Piaget(ピアジェ)、そして発見学習を提唱した Jerome Bruner(ブルーナー)らが影響を及ぼしていたそう。こういった教育の考え方の変化を取り入れ、生徒中心型の教育を行っていこうという目的でIBは設立されました。

IBのミッション

The International Baccalaureate® aims to develop inquiring, knowledgeable and caring young people who help to create a better and more peaceful world through intercultural understanding and respect.

IBは異文化理解と尊重を通して、より良い世界を作るために探求心、知識、思いやりの心を持った若者を育成することを目的とする

(中略)

These programmes encourage students across the world to become active, compassionate and lifelong learners who understand that other people, with their differences, can also be right.

IBプログラムは世界中の児童・生徒が他者やその他者との違いを理解した、積極的で共感の心を持った生涯にわたる学習者となることを促す

というのがIBのミッション・理念だそう。

 

IBの学習者像(Learning Profile)

そして、そのミッションはより具体的に「学習者像」として記されています。IBが目指す学習者像は勉強で成功することだけでなく、社会的スキルなど多くの人間的な側面と責任を備えています。

Inquirers(探求する人)

Knowledgeable(知識のある人)

Thinkers(考える人)

Communicators(コミュニケーションができる人)

Principled(信念を持つ人)

Open-minded(心を開く人)

Caring(思いやりのある人)

Risk-takers(挑戦する人)

Balanced(バランスの取れた人)

Reflective(振り返りができる人)

探求する人、知識のある人、などは学習における学習者像ととらえることができますが、残りの学習者像は「人として」大切な要素を含んでいますね。

 

IBのプログラム

IBは当初ディプロマプログラムという日本でいう高校生相当のプログラムのみでしたが、3~19歳の子どもたちに連続的なプログラムを提供するために、現在は3つのプログラムがあります(正確にはもう一つ、Carrer-related Programmeキャリア関連プログラムがありますが今回は省略します)。どのプログラムでも先述したIBのミッションや学習者像が共有されていて、人間的な成長や批判的思考、課題発見・解決能力などの学習スキルを促すように設計されています。

PYP Primary Years Program(プライマリーイヤーズプログラム)

年齢:3~12歳

特徴:探求型学習、6つの探求、教科横断型学習、生徒中心型学習(Student-centered)

生徒自身が自分たちの学習の「主体」である、というのがPYPの前提です。この「主体」という言葉、英語では Agents となります。日本語での主体という言葉に加えて、責任を持つことなども含まれているように感じます。自分で自分の学習をコントロールし、自分で学習に対して責任を持つ、といったところでしょうか。

そして、探求のテーマには、

私たちは誰なのか
私たちはどのような時代と場所にいるのか
私たちはどのように自分を表現するか
世界はどのような仕組みになっているのか
私たちは自分たちをどう組織しているのか
この地球を共有するということ

の6つがあります。これらのテーマのもとに、言語、社会、算数、芸術、理科、体育の6つの教科を横断的に学習します。

MYP Middle Years Program(ミドルイヤーズプログラム)

年齢:11~16歳

特徴:学習と現実社会を繋ぐ、8つの教科

MYPでは探求を通して、主体的で国際的な思考や批判的思考を併せ持った生徒の育成を目的としています。8つの教科は、言語習得、言語と文学、個人と社会、科学、数学、芸術、保健体育、デザインから構成されています。これらの中から二つ以上の教科を統合した学際的な授業時間を毎年設けることになっているそう。また、グループや個人で長期的な探求学習のプロジェクトも行うみたい。そういった学習と、社会とのつながりを意識したプログラムになっているそう。

DP Diploma Program(ディプロマプログラム)

年齢:16~19歳

特徴:知の理論(Theory of Knowledg: TOK)、課題論文、創造性・活動・奉仕

DPことディプロマプログラムはIBの中でも一番最初に確立されたプログラムです。16~19歳が対象ですが、その中で2年間のプログラムとなっています。特徴で挙げた3つのコア科目と6つの教科からなるカリキュラムです。この中でも特に、知の理論はDPの特徴的な科目だと思います。詳しくはまだ私も勉強中ですが、DP出身の方曰く、「知識とは何か」を問い、「私たちはどうやって知るのか」を学ぶそう。そこにある知識をただそのまま、はいはい、と受け入れるのではなく、その知識は誰が作って、発見して、どこから来たのか、そして私たちはその知識をどのように知ったのか、などを学習するよう。そしてDPでも探求型学習や教科横断性が重視されているそうです。

また、DPを終了し試験に合格するとDPのDの部分である、ディプロマ、証明書を得ることができそれらは世界中の様々な大学で入学試験の代わりや一部として使用することができます。

 

ISGRの場合

そして私が現在実習を行っている学校であるISGRにはPYPとMYPが、系列校の高校ではDPのプログラムがあります。私はPYPで実習中でMYPやDPについてはわからないので、ISGRでのPYPについて考察してみたいと思います。

 

全体的な雰囲気

ここまでIBの理念や学習者像、各プログラムの特徴などについて軽く書きましたが、ISGRでは全体的にこれらの特徴がとてもよく共有され普及しているという印象です。すべての学びや教師の生徒への接し方などがIBの理念に基づいているということが一目でわかります。教室中のいたるところに、学習者像やIBの学びについてだったり、探求のキーコンセプトや探求の流れなどについてが小学生にもわかりやすいように掲示されています。生徒たちもそれを理解していて、自分たちで学習する際にそれらを意識して問いを立てたり調べたりする際にキーコンセプトなどに基づいて行っています。

例えば、キーコンセプトの中には、Form(形)、Function(機能)、Conncection(繋がり)などがあり、生徒たちが調べ学習をする際などに、その対象の形は?機能は?私たちとの繋がりは?などのような問いを立てそれに基づいて学習している、といった感じです。

このような感じで、IBの理念や学習者像、カリキュラムといったものがただの理想や形骸化されたものではなく、学校やクラス、授業の1つ1つ、日々の生活の一つ一つに定着している、それらをもとに活動が形成されているというのが全体的な印象です。

 

学習者像

上記で挙げた学習者像もしっかりと教師の間、生徒の間で共有され理解されています。すべての生徒がこの学習者像のようにふるまうことができているわけではなりませんが、「像」としてゴールがあることで先生方も生徒がそういったゴールに近づけるように関わっている印象を受けています。

また、この学習者像があるからでしょうか、礼儀正しく、優しく、相手を尊敬できる子どもたちが多いようにも感じています。海外の学校だし、私はちんちくりんなアジア人だし、なんかすごいバカにされたりするのかな…なんて不安がありましたが、そんなことはなく、私の関わっている生徒たちは8‐9歳ですが、とてもしっかりしている印象の子たちが多いです。

探求型学習(Inquiry-based learning)

上記で挙げた探求のテーマに沿って探求学習を行っています。ISGRでは一日のうちに必ず探求学習の時間があります。私が実習している3年生は「世界はどのような仕組みになっているのか」という探求テーマのもと、宇宙について学習していました。ですが、IBのPYPが探求型学習をもとにしている、といういみでの探求学習はこの探求の時間だけでは終わりません。

言語の時間(日本でいう国語にあたる)で取り上げるトピックも宇宙について。生徒たちは今まで調べたことをレポートという形でまとめて書いていました。音楽の時間には生徒たちが調べた宇宙についての知識を使って歌詞を書き、メロディを作り、レコーディングまでするという!なんともハイテクです。このように、その時期の探求テーマに合わせて、すべての教科が連動しながら、教科を横断しながらそのテーマについてを探求・学習したり、そのテーマに基づいた学習を行います。

日本でも小学校だと担任がすべての授業を持っていたりするため、中高に比べて教科横断的な学習は行いやすいかと思いますが、ここまで一つのテーマに基づいてすべての学習が行われている、行うことができる、ということにとても驚きました。

 

Student-centered

Student-centered(生徒中心の学習)、と聞くと何を思い浮かべますか?生徒だけで勉強していけるわけないだろ、結局そんなの理想でしかない、私もそう思っていました。ですが、IBを実践しているISGRではそれが実際に起こっているのです!あくまで学びの主体は生徒であり、教師はファシリテーター、生徒たちの学びをサポートしていく人、といった要素が強いように感じます。もちろん、カリキュラムや一年を通して勉強することは決まっており、教師が授業を設計し行っています。ですが、その枠組みの中で、生徒はとても自立した学習者であると感じています。

例えば算数の時間、私の担任の先生は分野ごとに毎回生徒を能力別のグループに分け、「先生と学ぶ時間」「教科書で学ぶ時間」などを一コマの中で2回ほどローテーションしています。そうすると、先生と学ぶ時間以外の生徒たちは自分で学習することになるわけですが、みんなその日にやることを自分で確認して(これは先生が決めています)、持ち場について黙々と(たまにうるさいときもあるけど)自分のやることに向かっています。

また、探求の時間には調べ学習をして発表する、というタスクがあればみんなそれぞれ問いを立てて、その問いに基づいて調べたり学習したりしているのです。びっくりでした。Google slide や documentを使いこなすのもお手物といった感じで、生徒間で共有して編集していたり、画像や動画を埋め込んだり。あくまで先生は手助けするだけ、といった感じです。

確かに先生が前に立って説明したり、指示をしたりするような時間もあります。ですがそれもあくまで先生は前にいるだけであって、生徒と一緒に作り上げる授業であることに変わりありません。生徒中心型の学習・教育、というのが徹底されていると強く感じます。

 

 

でも、私は久しく小学校という環境には携わっておらず、自分が小学校を卒業してからもう10年ほどが経ちます。もしかしたら、日本の子どもたちのデジタル技術を扱う能力もすごく発達しているかもしれないし、日本の小学校にもいいところやびっくりするところがたくさんあるかもしれないと感じています。日本に帰ったら小学校の時の先生にお願いして見学させてもらおうかな~なんて考えていたりもするので、ご報告できたらいいなと思っています!

 

 

出典

The History of the International Baccalaureate Program

History of the IB Program | IB School Los Angeles | Chatsworth Hills